2013年1月、厚生労働省が生活保護費の削減案を公表しました。
それを読んだとたん、筆者は強い疑問にとらわれました。
削減理由として物価下落が挙げられていましたが、
厚労省が示す物価下落率が大きすぎると思えたのです。
それ以来、さまざまな人と議論しながら研究をじっくり続け、
意図的に下落率を膨らませた「物価偽装」であると確信しました。
ふだんはまったく使われない計算方式をさりげなく使っています。
比較する2つの時点のうち、後の時点が2010年である場合は、
その計算方式を使うと物価下落率が異様に膨らみます。
厚労省が計算対象にしたのは、2008年〜2011年。
2008年〜2010年はその異例の計算方式であり、
2010年〜2011年は通常の計算方式になっています。
計算方式の混在があっていいのでしょうか?
簡単には伝えにくい問題なので、自前でホームページを作りました。
未完成ですが、厚労省による「勤労統計不正」の問題もあるので、
急ぎ公開に踏み切ります。
物価指数の話は難しそうですが、計算の仕組みは実は簡単です。
2019年の通常国会では、勤労統計不正などの統計問題が大きな焦点になりました。
1958年名古屋市中川区生まれ。
「こんな単純なカラクリの偽装なのか」と驚く人が多いはず。
以下の順序でじっくりやさしく説明していきます。
あちこちに未完成部分があることをお詫びします。
第1章 物価偽装とは何か
第2章 物価指数は買い物かごスタイルで計算
第3章 統計局は世界標準の方式で計算
第4章 厚労省の計算方式の???に迫る
第5章 方式変更で電気製品の影響が極大化
第6章 パソコンなどの品質調整
第7章 2010年が「特別な年」だったテレビ
第8章 誤差が大きいことの証拠の数々
第9章 生活保護世帯の暮らしぶりを無視
第10章 真実の下落率は1%未満の公算大
第11章(結論)統計の信頼性を失墜させる愚行
第12章(特別付録)裁判闘争で勝つための参考資料
国会議事堂内での白井スピーチ
物価偽装問題でも野党議員が厳しい追及をしました。
5月16日には国会議事堂内で物価偽装問題に関する野党合同ヒアリングが実施されました。
野党国会議員のほか厚労省、総務省統計局の官僚らが出席。
その場で筆者も3分間スピーチをさせていただきました。読み上げた文章をそのまま載せます。
フリーライターで元中日新聞生活部編集委員の白井康彦と言います。
私は、この問題を物価偽装問題と呼んでいます。詐欺的行政だからです。
かつての公的年金の物価スライドのように、
厚労省が生活保護費を物価下落率に連動させて大幅に削りました。
その際の物価下落率を厚労省は大幅に水増ししました。
厚労省は生活扶助相当CPIという物価指数を開発し、
その2008年〜2011年の下落率を4.78%としました。
私は、正しく計算された場合の下落率は1%未満だと思っています。
4.78%という下落率はフェイクです。
フェイクによって、国民の最低生活ラインが大幅に切り下げられてしまいました。
数ある統計不正の中で最悪のものです。
私は、勤労統計不正の際に実施された追加給付が、物価偽装問題でも実施されるべきだと考えています。
追加給付の金額は、1000億円をはるかに超すでしょう。
統計委員会の検証作業の対象にするなど、まず、事実関係の検証から着手すべきだと思います。
物価指数統計や物価スライド制度は
「物価指数変化率が正しく計算されている」という国民の信頼に基づいています。
その信頼をぶち壊すような厚労省の行為は、おそろしく罪深いものです。
各地の生活保護費の裁判にかかわりながら、物価偽装問題の研究を続けてきました。
偽装のカラクリはそんなに難しいものではありません。
物価指数が買い物かごの形で計算されるからです。私は自分自身でこの問題のHPを作りました。
題名は「生活保護費大幅削減のための物価偽装を暴く」。それを読んでいただきたいです。
厚労省の計算には、おおまかに言って2つの問題点があります。
1つ目は、計算方式。日本の消費者物価指数は、ラスパイレス方式で計算されてきました。
しかし、厚労省は2008年〜2010年はパーシェ方式、
2010年〜2011年はラスパイレス方式で計算しました。2つの方式の併用は、異様な統計処理と言えます。
2つ目は、物価指数計算で使う各品目のウエイト、支出額割合です。
厚労省は、総務省統計局の消費者物価指数統計のウエイトを使いました。
これは、家計調査がもとになっており、一般世帯平均の数字です。
生活保護世帯を対象にして厚労省が毎年実施している社会保障生計調査のデータを活用すべきでした。
厚労省の計算結果は公表されています。それをもとに各品目の寄与度が簡単に計算できます。
4.78%の下落率のうち約3ポイント分はテレビとパソコンの影響です。
貧しい生活保護世帯では、電気製品の支出額割合は非常に低いです。
厚労省計算のテレビとパソコンの寄与度は、現実との乖離があまりに大きく、
生活保護利用者の方々が気の毒です。
比較する2時点のうちの後の時点が2010年であるときに
消費者物価指数統計のウエイトを使ってパーシェ方式で計算すると、
テレビやパソコンの影響で下落率が異様に膨らみます。
下落率4.78%という異様に大きな数字は、
物価指数下落率が異様に膨らむ計算方式をわざわざ選んだ結果なのです。
生活保護世帯向けにだけ、なぜ、特異な計算方式を使ったのか。重大な人権侵害だと思います。
筆者自己紹介
一橋大学商学部を卒業して1984年に中日新聞社に入社。
東京本社整理部、東京本社経済部、名古屋本社経済部、名古屋本社生活部、
岐阜総局、名古屋本社中部圏報道部、岐阜支社報道部、名古屋本社生活部、
北陸本社小松支局(支局長)、名古屋本社生活部(編集委員)を経て、
2018年6月末で定年退職。現在は「社会活動家」も目指すフリーライター。
何かに依存症的に徹底的に打ち込むのが得意技。
若いころは将棋修行に明け暮れ、全国有数のアマ強豪だった。
著書=「生活保護削減のための物価偽装を糾す!」(あけび書房)