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第2章 物価指数は買い物かごスタイルで計算

 おおかたの人は「難しい問題」と感じると、心の中でその問題を遠ざけます。
そして、物価偽装は「難しい問題」と多くの人が誤解しています。
 物価指数の計算の仕組みは、実は意外に簡単。
そこを絶対に分かってもらいたい。だから、説明の仕方に工夫を重ねねば…。
 この第2章は、筆者の苦心惨憺の末の産物です。

「算数の世界」のやさしい計算構造

 難しそうに思えるのは「物価指数」という言葉も一因でしょう。
難しい数学の世界に入っていくと感じる人が多いようです。
実際には物価指数の計算は、足し算、掛け算、引き算、割り算だけですみます。

「日常の買い物のイメージ」で考える

 物価指数の計算の仕組みがやさしいのは、買い物かごスタイルになっているからです。
普段の買い物の場面を思い浮かべながら、物価指数のことを考えましょう。

 上のイラストを見てください。いい感じの図柄なので、借用させていただきました。
和歌山県県民生活課発行のリーフレット「わかやま物価とくらし」の2000年3月号に載っていました。
買い物かごには、米、ニンジン、ワイシャツが入っています。
イラストが示しているのは「消費者物価指数の10%上昇」です。

消費者物価指数の変化率=買い物かご合計代金の変化率

 この見出しの等式をまず覚えてください。超重要です。
日常の生活感覚にぴったり沿うものだと思います。
物価が上がれば、買い物のときに必要なお金が増えます。
買い物かごを使う人なら、かごの中のさまざまな品目の合計代金が増えるわけです。
 このイラストでは、合計代金は20万円から22万円に10%増えました。
買い物かご合計代金の変化率は、消費者物価指数の変化率と同じ。
そのため、この場合は消費者物価指数の上昇率が10%となります。
 「消費者物価指数をどう計算するか」。
それは「買い物かごの合計代金をどう計算するか」ということです。
次の計算式も意識してください。まったく当たり前の式ですが、重要です。

 買い物かごの合計代金は、かごの中の各品目の代金の合計。
結局、各品目の代金をどう計算するかをしっかり考えないといけないのです。

「基準時点」「比較時点」とは

 物価指数の計算の仕組みを理解するためには、基本的ないくつかの用語は覚えねばなりません。
先ほどのイラストに出てきた「基準時」「比較時」は、非常に頻繁に出てくる用語です。
「基準時」は「基準時点」、「比較時」は「比較時点」と同じです。
 比較時点は、物価指数を算出しようとしている時点です。
その比較時点の物価指数の水準を示すには、基準の時点の物価指数と比べることが必要。
その基準の時点が「基準時点」です。従って、必ず、基準時点は比較時点より古い時点になります。
 基準時点、比較時点とも、理屈の上では年単位にも月単位にもできます。
実務上は、基準時点は年単位にされるのが普通です。
消費者物価指数の場合は、毎月、公表時点の前月の水準が公表されます。
公表時点の前月が比較時点になっているわけです。

物価指数は「どんな数値?」「どう計算?」

 多くの品目の価格の動きを平均したものが物価。
その物価の動きを標準値が100の数値で示したものが物価指数です。
基準時点を100とするのが一般的です。その場合は、
基準時〜比較時で物価が10%上がったのなら、物価指数は基準時点が100で,
比較時点が110ということになります。「物価の10%上昇」をイメージしやすい数字です。
 基準時点や比較時点の買い物かご合計代金が分かっていれば、計算できます。
ポイントは「基準時点〜比較時点で合計代金が何倍になったか」です。
その倍率を100倍した数値が比較時点の物価指数です。
合計代金が何倍になったかは、比較時点の合計代金を基準時点の合計代金で割れば出ます。
それを100倍するのだから、比較時点の物価指数の計算式は次の通りになります。

 茨城県統計課作成のホームページ「ふるさとおもしろ統計学」に2008年12月に掲載されたのが次のイラスト。
やはり、買い物かごを登場させています。
買い物かごの合計代金を「総費用」とか「費用」と呼んでいますが、内容は同趣旨。
比較時点の31万5000円を基準時点の30万円で割って100を掛けています。
出てきた答えは105.物価指数は、基準時点が100で比較時点が105ということです。
この計算手順は、先ほど筆者が示した計算式そのままです。

価格指数は「どんな数値?」「どう計算?」

 個別の品目の価格の動きを標準値が100の数値で表したのが価格指数です。
基準時点を100とする価格指数が一般的です。
「基準時点〜比較時点で価格が何倍になったか」がやはりポイントです。
その倍率を100倍した数値が比較時点の価格指数です。
この場合の価格は「何個でいくら」の価格ではなく、「1個いくら」の「単価」です。
 ある品目の単価が、基準時点には50円、比較時点は40円だったとします。2割値下がりです。
この品目の「基準時点を100とする比較時点の価格指数」は、
40円を50円で割って100を掛ければ出ます。答えは80です。
 価格指数は、基準時点が100、比較時点が80です。2割値下がりが分かりやすい形で示せています。
基準時点を100とする比較時点の価格指数は次の計算式で求めます。物価指数そっくりです。

例外的に比較時点の指数を100とすることもある

 物価指数や価格指数は「比」だと考えると理解しやすいのかもしれません。
物価指数計算用の買い物かごの合計代金を基準時点50万円、比較時点40万円とします。
基準時点〜比較時点で合計代金は0.8倍になりました。
それを100倍します。基準時点を100とする比較時点の物価指数は80です。
「50万:40万」=「1:0.8」=「100:80」であることを確かめてください。
 物価指数や価格指数は、基準時点を100とするのが普通ですが、例外的に比較時点を100とすることもあります。
買い物かご合計代金が基準時点50万円、比較時点40万円であるとき、
比較時点の物価指数を100とするにはどうすればいいのでしょう。
とりあえず、基準時点の合計代金が比較時点の合計代金の何倍だったかを考えます。
50万円を40万円で割って、1.25倍と分かります。それを100倍して、
比較時点の物価指数を100とする基準時点の物価指数の125をはじき出します。
「50万:40万」=「1:0.8」=「100:80」=「1.25:1」=「125:100」という関係を確かめてください。
 価格指数の場合も同様に計算すればいいです。
比較時点を100とする基準時点の物価指数や価格指数の計算式は、次の通りです。

「品目と購入数量の固定」が計算の大原則

 お待たせしました。いよいよ、買い物かごの合計代金をどう計算するか考えます。
まず、物価指数の計算では基準時点と比較時点の品目を完全に一致させることが大原則です。
基準時点に250品目が入っていた買い物かごのことを考えます。
比較時点には、その250品目に5品目が追加され、5品目の代金合計が2万円としましょう。
追加された5品目以外の250品目の合計代金が基準時点と比較時点で同じ100万円だったとしても、
比較時点の買い物かご合計代金は、追加された5品目の代金の2万円だけ多くなってしまいます。
 そういったことが起きないように、基準時点〜比較時点の品目をぴったりそろえるのです。
品目をそろえることが比較の前提となるのは、常識の範囲内にも思えます。

 もう1つの大原則は「基準時点〜比較時点で各品目の購入数量が変わらない」と仮定することです。
なぜ、それが必要か。ミカンとリンゴの2品目だけの「ミカン・リンゴ物価指数モデル」で考えます。
この第2章では、このモデルでずっと考えていきます。モデルの想定条件は次の通りです。
【基準時点には、1個50円のミカンを2個、1個100円のリンゴを3個買った。
比較時点では、ミカンは1個30円に値下がりしていたので嬉しくなって4個買い、
リンゴは値段が変わらなかったので、基準時点と同じく3個買った】

 リンゴの価格は変わらず、ミカンは値下がりしたので、物価水準は下がったはずです。
しかし、想定条件通りに計算すると、そういった計算結果にはなりません。
買い物かごの合計代金は、基準時点は「ミカン50円×2個=100円」「リンゴ100円×3個=300円」の合計400円。
比較時点は「ミカン30円×4個=120円」「リンゴ100円×3個」の合計で420円。
買い物かご合計代金は5%の増加になってしまいました。
 物価指数の計算では「買い物合計代金の変化率=物価指数の変化率」となるはずです。
なぜそうならないのでしょう。答えは簡単。価格以外の要因が計算に影響しているためです。
このモデルでは、基準時点〜比較時点でミカンの購入個数が2倍に増えています。
その数量増加の要因と価格下落の要因がごっちゃになって分かりにくくなっているのです。
 そういったことにならないよう、物価指数の計算では仮定の条件を設けて計算します。
「基準時点〜比較時点で各品目の数量が変わらない」という仮定です。
 この仮定によって、各品目の代金は価格の変化に完全に比例して変化するようになります。
基準時点〜比較時点でミカンの価格が0.6倍になれば、ミカンの代金も0.6倍になるのです。
 「買い物かごの中の品目や各品目の数量を固定して計算する」という手法は、物価指数計算の一番の要。
このあたりのことは、しっかり入念に頭にたたきこんでおくべきです。
総務省統計局のCPIのサイトには「消費者物価指数の作り方」というコーナーがあります。
その8ページには、この基本がしっかり説明してあります。下の画像で確かめてください。

 ただ、数量については、どの時点の数量で固定するかという問題があります。
この問題への対応で、ラスパイレス方式とパーシェ方式の違いが生じました。

基準時点の数量で固定するラスパイレス方式

 物価指数計算の世界では、ラスパイレス方式とパーシェ方式が有名です。
ラスパイレス氏もパーシェ氏も19世紀後半に活躍したドイツの経済や統計の学者です。
物価指数の計算方式をめぐって議論していたのは、日本で言えば、明治維新の頃です。
ラスパイレス指数、パーシェ指数という言葉もよく使われます。
2人とも、物価指数計算用買い物かごの中の各品目の代金は、次の式で計算していました。

 普通でごく当たり前の計算方法です。2人の違いは、各品目の数量をどの地点のもので固定するか。
ラスパイレス氏は、基準時点の数量で固定することを提唱しました。
「基準時点の買い物の仕方が比較時点まで続く」といった考え方です。
 先ほどのミカン・リンゴ物価指数モデルで考えてみましょう。モデルの想定条件は次の通りです。

 計算結果は次の図の通りです。基準時点、比較時点ともミカンの数量は基準時点の2個となります。
買い物かご合計代金は、基準時点は「ミカン50円×2個=100円、リンゴ100円×3個=300円」の合計で400円。
比較時点は「ミカン30円×2個=60円、リンゴ100円×3個=300円」の合計で360円です。
基準時点を100とする比較時点の物価指数は「360円÷400円×100」で90となります。
物価指数は基準時点〜比較時点で10%下落したわけです。

 今の計算手順を一般的な式にすると次の通りになります。

 PとかQとかΣ(シグマ)のような記号で表すことが普通です。
しかし、そうした記号によって「難しい問題」と思う人が多いので、普通の日本語で表記します。
 消費者物価指数の実際の計算では、対象の品目が数百あります。
計算作業は大変に思えますが、実際やってみると意外なほど楽です。
次のような形で、自分のパソコンでエクセルを使ってスムーズに計算できるからです。

比較時点の数量で固定するパーシェ方式

ラスパイレス方式の考え方は「基準時点の買い物の仕方を比較時点にもすると買い物かごの合計代金はどう変わるか」。
価格変化によって各品目の比較時点の購入数量が変わる現実を無視しています。
そこで、パーシェ氏は別の考え方を提唱しました。
「比較時点の買い物の仕方を基準時点にもしていたら買い物かごの合計代金はどう変わるか」。
比較時点での各品目の購入数量が基準時点でも同じだったという仮定で計算するわけです。
 今回もミカン・リンゴ物価指数モデルで考えます。モデルの想定条件は次の通りです。

 計算結果は次の図の通りです。基準時点、比較時点ともミカンの数量は比較時点の4個となります。
買い物かご合計代金は、基準時点は「ミカン50円×4個=200円、リンゴ100円×3個=300円」の合計で500円。
比較時点は「ミカン30円×4個=120円、リンゴ100円×3個=300円」の合計で420円です。
基準時点を100とする比較時点の物価指数は「420円÷500円×100」で84となります。
物価指数は基準時点〜比較時点で16%下落したわけです。
 このモデルでは物価指数の下落率は、ラスパイレス方式では10%、パーシェ方式では16%。
パーシェ方式の方が下落率が大きいのは、基準時点〜比較時点でミカンの購入数量が2倍に増えたからです。
購入数量が2倍に増えた比較時点の数量で固定させて計算するので、
パーシェ方式のときはミカンの値下がりの影響が大きくなるのです。

 パーシェ方式の計算方法を一般的に書くと、次の通りです。

 パーシェ方式も次のように表の形で計算できます。

数量を使わないですます変形の計算式

 物価指数の初歩的な解説では、各品目の代金は「数量×価格」で計算すると説明します。
ところが、消費者物価指数を計算する現場では、数量のデータを使いません。数量の設定ができないのです。
総務省統計局は「交通費や医療費については統一的な単位で数量を調べることが難しい」などと説明します。
 困ったようですが、数量を使わないですます進化した計算方法があります。
数量を固定する時点の各品目の代金をもとに別の時点の各品目の代金を求める方法です。
この方法は巧妙ではあるものの理解しにくい。例を出しますので、じっくり考えてみてください。
 ある品目のA時点の代金は分かっていて、他の時点の購入数量も、A時点の数量で変わらないと仮定します。
A時点とB時点の価格(単価)が分かっていれば、B時点の代金は次の式で計算できます。
B時点がA時点より前か後かは関係ありません。

 A時点の数量で固定するという約束があるなら、B時点の代金は、A時点の代金に
「B時点の価格はA時点の価格の何倍か」の変化倍率(価格比)を掛ければ出せます。
この説明文を計算式にしたのが、この図の式です。
 B時点の代金を「価格(単価)×数量」で計算するときは、他の時点の事情は関係ありません。
今説明している計算方法はそうではなく、B時点の代金がA時点の代金との相対的な関係で決まります。
A時点とB時点の価格の比が、A時点とB時点の代金の比と同じになることを利用した計算方法です。
 日常的な買い物で考えましょう。A時点に1本30円のバナナを10本買ったと仮定します。
B地点にはバナナは1本39円だったとします。価格は1.3倍です。
A時点の数量で固定するので、計算上はB時点のバナナの本数も10本になります。
バナナの代金は、A時点は「30円×10本=300円」、B地点は「39円×10本=390円」です。
 A時点のバナナ代金が300円、価格変化の倍率(B時点の価格÷A時点の価格)が1.3倍と分かっていると、
「本数は何本?」などと考えずに、別ルートで計算できます。
A時点のバナナ代金の300円を1.3倍してB時点のバナナ代金を390円とはじき出せるのです。
バナナの価格はB時点がA時点の1.3倍。だから、バナナの代金もB時点がA時点の1.3倍になる理屈です。
バナナの価格(単価)と代金の関係を表にまとめたので、確認してください。

 「こんな感じの計算なら、日々の買い物のときにいつもやっている」とうなずく人もいるはずです。

実用性が高い進化系のラスパイレス方式

 先ほどの計算式をもう一度よく見てください。
A時点が基準時点、B時点が比較時点なら、次の図の式になります。

 比較時点の各品目の代金が今の式で出せるので、合計代金もつかめます。
比較時点の合計代金を基準時点の合計代金で割って100を掛ければ、
基準時点を100とした比較時点の物価指数が算出できます。式にすると、次の通り。

 これが「基準時加重相対法算式」と呼ばれる計算方式です。
ラスパイレス方式を変形させた式であり、内容的にはラスパイレス方式と同じです。
 再び、例のミカン・リンゴ物価指数モデルで考えます。モデルの設定条件は次の通りです。

 基準時加重相対法算式を当てはめた計算結果は次の図になります。

 基準時点の数量で固定するのがラスパイレス方式。この方式で数量を考えずに計算するには、
各品目の基準時点の代金に「比較時点の価格は基準時点の価格の何倍か」の倍率を掛けます。
このモデルでは、価格変化のないリンゴの代金は、基準時点、比較時点とも300円です。
 一方、ミカンの基準時点の代金は100円です。
ミカンの比較時点の代金は、100円に価格変化の倍率を掛けて出します。
ミカンの単価は50円→30円という推移なので、価格変化の倍率は「30/50倍」つまり0.6倍です。
結局、ミカンの比較時点の代金は「100円×0.6」という計算で60円となります。
 買い物かご合計代金は、基準時点はミカン100円、リンゴ300円の合計で400円。
比較時点はミカン60円、リンゴ300円の合計で360円です。
買い物かご合計代金は400円→360円の推移なので、物価指数は100→90となります。
 基準時加重相対法算式も、品目が数百あっても次のように表の形でスムーズに計算できます。

 基準時加重相対法算式は、実用性が極めて高いのが特長です。
各品目の価格変化率は、調査員が店頭価格を調べる方法で統計を整備できます。
 基準時点の各品目の代金も、多くの家庭へのアンケート調査で把握した支出額割合から設定できます。
基準時点に1回、大規模にアンケート調査をすれば、
各品目の基準時点の代金と価格変化率から物価指数が計算できるのです。
このため、世界の多くの国が基準時加重相対法算式を使って物価指数を計算しています。

進化系でも実用化できないパーシェ方式

 数量を使わないで計算するラスパイレス方式が「基準時加重相対法算式」でした。
それと並ぶのが、数量を使わないで計算するパーシェ方式である「比較時加重相対法算式」です。
パーシェ方式なので、比較時点の数量で固定するのが決まり。各品目の比較時点の代金が分かっていれば、
比較時点の代金に「基準時点の単価は比較時点の単価の何倍だったか」の倍率を掛ければOK。
次の計算式で、各品目の基準時点の代金がはじき出せます。

 この計算式をもとに各品目の基準時点の合計代金が計算できます。
そして、比較時点の合計代金を基準時点の合計代金で割って100を掛けると、
基準時点を100とした比較時点の物価指数になります。その形にした計算式は次の通りです。

 これが「比較時加重相対法算式」です。
パーシェ方式を変形させた式であり、内容的にはパーシェ方式と同じです。
 またまた、ミカン・リンゴ物価指数モデルで考えます。モデルの設定条件は次の通りです。

 比較時加重相対法算式を当てはめた計算結果は次の図になります。

 比較時点の数量で固定するのがパーシェ方式です。この方式で数量を考えずに計算するには、
各品目の比較時点の代金に「基準時点の価格は比較時点の価格の何倍か」の倍率を掛けます。
このモデルでは、価格変化のないリンゴの代金は、基準時点、比較時点とも300円です。
 一方、ミカンの比較時点の代金は120円です。
ミカンの基準時点の代金は、120円に価格変化の倍率を掛けて出します。
ミカンの単価は基準時点50円→比較時点30円という推移です。
基準時点の単価が比較時点の何倍だったかは「50÷30」で1.666倍です。
結局、ミカンの基準時点の代金は「120円×1.666」という計算で200円となります。
 買い物かご合計代金は、基準時点はミカン200円、リンゴ300円の合計で500円。
比較時点はミカン120円、リンゴ300円の合計で420円です。
買い物かご合計代金は500円→420円の推移なので、物価指数は100→84となります。
 比較時加重相対法算式も、次のように表の形でスムーズに計算できます。

 パーシェ方式の変形である比較時加重相対法算式も、実用性はありません。
物価指数の計算は、担当機関によって毎月行われます。比較時点は最新の時点です。
比較時点の各品目の代金を設定するには、比較時点に大掛かりなアンケート調査をして、
比較時点の各品目の支出額割合をつかむ必要がありますが、
毎月大掛かりなアンケート調査をして、最新時点の支出額割合をつかむのは困難です。

加重相対法算式の正しさを式の変形で確認

 ここまでの説明では、基準時加重相対法算式や比較時加重相対法算式が難しい感じ。
そこで、両方式についてさらに説明します。
計算式の変形をいろいろやってみると、両方式の意味するところがよく分かってきます。
まず、次の@の式を見てください。

 これは、個別品目の代金が基準時点〜比較時点で何倍になったかをはじき出す計算式です。
物価指数の計算では、基準時点と比較時点の数量が同じと仮定します。
@の式の右辺の分母と分子には同じ数量が掛かっていることになるので、
その数量で分母と分子それぞれを割ると、次のAの式になります。

 Aの式をよく見てください。基準時点と比較時点の代金や単価について
「代金が何倍になったのかと、単価が何倍になったのかの倍率は同じ」という意味です。
このあたりが物価計算のキーポイントです。
 続いて、Aの式の両辺に「基準時点の代金」を掛けます。するとBの式になります。

 これは、基準時加重相対法算式で、比較時点の代金を求める計算式です。
 先ほどのAの式は、両辺の分母と分子をひっくり返すことができます。
すると、次のCの式になります。

 このCの式の両辺に「比較時点の代金」を掛けると、Dの式になります。

今度は、比較時加重相対法算式で、基準時点の代金を求める計算式です。
 簡単な計算式の変形によって「加重相対法算式」の正しさは立証できるのです。

「加重平均」「ウエイト」も理解しておこう

 この第2章では「基準時加重相対法算式」「比較時加重相対法算式」という言葉が出ています。
「加重って何」と感じた人もいるはずなので、加重とは何かを考えます。
ミカン・リンゴ物価指数モデルの基準時加重相対法算式の計算表を再掲します。

 この表のC列の「ミカン0.6」「リンゴ1」の数字は、
ミカンやリンゴの単価が基準時点〜比較時点で何倍になったかの変化倍率(価格比)です。
 この変化倍率の平均を出しましょう。単純平均だと、「(0.6+1)÷2」という計算で0.8になります。
ところが、買い物かごの計算では、合計代金は基準時点400円、比較時点360円になります。
合計代金の変化倍率は0.9倍です。物価指数は100→90で0.9倍になったのです。
この合計代金の計算、つまり物価指数の計算が「加重平均」になっているのです。
 基準時点で見ると、購入代金はミカンよりリンゴの方が3倍大きい。
それを反映させて平均するのが「加重平均なのです」。加重平均は、重みを反映させた平均。
この場合は、ミカン100円、リンゴ300円という基準時点の代金を重みにして、加重平均しています。
重みにする数字を「ウエイト」と呼びます。
基準時加重相対法算式や比較時加重相対法算式の「加重」は、ウエイトの意味で使われています。

「ロウ指数」「ウエイト参照時加重相対法算式」を考える

 物価指数の計算方式の説明を続けてきました。
筆者は、この方面の勉強をして、19世紀前半に活躍した英国の学者、ロウ氏が偉大だったと思いました。
 ロウ氏は、買い物かごの形で加重平均する方式を提唱。ロウ指数とも言われます。
ラスパイレス指数やパーシェ指数の母体となるものです。
ロウ指数も、基準時点と比較時点の買い物かご合計代金を比較します。
ラスパイレス指数やパーシェ指数との違いは、各品目の数量をいつの時点で固定するかです。
ロウ指数では「数量を固定する時点はいつでもいい」とされました。
基準時点が2015年、比較時点が2018年だとしましょう。
ロウ指数では、数量を固定する時点は、2010年でも2011年でも2017年でもいいことになります。
 物価指数の世界では、数量を固定する時点は「ウエイト参照時点」と呼ばれます。
聞きなれない言葉で恐縮ですが、ここでもその言葉を使います。
基準時点を100とした比較時点の物価指数の計算式は、ロウ指数では次の通りです。

 この式の「ウエイト参照時点」のところを「基準時点」や「比較時点」に置き換えてください。
基準時点に置き換えると、ラスパイレス指数の計算式になっています。
比較時点に置き換えた場合は、パーシェ指数の計算式に変わります。
数量を固定する時点を基準時点にしたロウ指数がラスパイレス指数であり、
数量を固定する時点を比較時点にしたロウ指数がパーシェ指数です。
ロウ指数の中の特殊なケースが、ラスパイレス指数やパーシェ指数なのです
 ロウ指数、ラスパイレス指数、パーシェ指数の関係を学んで筆者が発見した事実があります。
ロウ指数は数量を使って計算します。
それに対応する形で数量を使わない「ウエイト参照時加重相対法算式」という計算方法が考えられます。
「ウエイト参照時加重相対法算式」は筆者の造語です。次のように計算します。
 ある品目の××時点の代金は、その品目のウエイト参照時点の代金に、
「××時点の単価はウエイト参照時点の単価の何倍か」の変化倍率を掛けた数字になります。
××時点が基準時点や比較時点の場合は、××時点の部分を基準時点や比較時点に置き換えればいい。
 このような手順で、買い物かごの比較時点の合計代金や基準時点の合計代金を出す。
そして、比較時の合計代金を基準時の合計代金で割って、100を掛けます。
これによって、ウエイト参照時加重相対法算式の計算式になります。確認してください。

 この計算式の中のウエイト参照時点を基準時点に置き換えてみてください。
ウエイト参照時加重相対法算式は、基準時加重相対法算式に変わります。
ウエイト参照時点を比較時点に置き換えた場合は、比較時加重相対法算式に変わります。
 ウエイト参照時加重相対法算式の中の特殊なケースが、基準時加重相対法算式や比較時加重相対法算式なのです。

簡単につかめる個別品目の影響度

 物価指数の計算では、物価指数変化率への各品目の影響度が明確につかめます。
計算の仕組みが買い物かごスタイルだからです。
これは極めて重要なポイントなので、しっかり学んでください。
 買い物かごの図を見てください。かごには3品目だけが入っています。
品目@の代金は「A円→A´円」、品目Aの代金は「B円→B´円」、
品目Bの代金は「C円→C´円」と推移したと仮定します。


 買い物かご合計代金は「A円+B円+C円」から「A´円+B´円+C´円」に変わりました。
合計代金の増減額は「(A´円+B´円+C´円)ー(A円+B円+C円)」です。
変形すると、「A´円+B´円+C´円−A円−B円−C円」です。
さらに変形すると、「(A´円−A円)+(B´円−B円)+(C´円−C円)」になります。
 次に図の右側の各品目の増減額を見てください。
品目@は(A´円−A円)、品目Aは(B´円−B円)、品目Bは(C´円ーC円)です。
各品目の増減額の合計は「(A´円−A円)+(B´円−B円)+(C´円−C円)」になります。
 これは、合計代金の増減額の式を変形させた式とまったく同じです。
つまり、買い物かご合計代金の増減額は、各品目の増減額の合計と同じになるのです。
買い物かご合計代金の変化率は、物価指数の変化率とイコールです。
従って、物価指数変化率への各品目の影響度がつかめるわけです。
 こういった差し引き計算は、日常の買い物でも意識している人が多いでしょう。
前月と今月の各品目への支出金額を確認してみたAさんの例を出しましょう。
「米代は500円減った。野菜代は300円増えた。ガソリン代も200円増えた。差し引きすると±ゼロですね」。

難しそうな「寄与度」の計算も実は簡単明瞭

 物価指数の世界では、物価指数変化率への各品目の影響度は「寄与度」としてきっちり計算します。
ミカン、リンゴ、バナナが入った果物かごモデルで考えます。図を見てください。

 買い物かご合計代金の増減は、基準時点400円→比較時点380円なので、マイナス20円。
減少率は、このマイナス20円を基準時点の合計代金の400円で割れば出ます。
「マイナス20円÷400円」という計算で、マイナス0.05となります。
%表示にするには100を掛けます。マイナス5%です。これが合計代金の変化率。
買い物かご合計代金の変化率イコール物価指数変化率なので、物価指数変化率はマイナス5%です。
物価指数は「100→95」の推移なので、下落率は間違いなく5%です。
 各品目の寄与度も同じように計算します。ミカン代金の増減はマイナス40円。
これを基準時点の合計代金の400円で割れば、寄与度がマイナス0.1と出ます。
%表示では、100を掛けたマイナス10%です。
 リンゴ代金の増減はプラス20円。これを基準時点の合計代金の400円で割ります。
寄与度はプラス0.05。%表示にするために100を掛けて、%表示の寄与度は5%となります。
バナナは代金の増減はないので、寄与度はゼロ%です。
 整理すると、%表示の寄与度は「ミカンがマイナス10%、リンゴがプラス5%、バナナが0%」です。
寄与度の合計はマイナス5%です。これは買い物かご合計代金の変化率と同じ。
買い物かご合計代金の変化率イコール物価指数変化率なので、
各品目の寄与度の合計は、物価指数変化率とも一致します。これは常に成り立つ等式です。
計算式を図示しておきますので、しっかり覚えてください。

 物価指数の計算で、各品目の寄与度がきっちり計算できることのメリットは大きいです。
物価指数の変化についての説明で、各品目の影響具合を正確に伝えられます。
 厚労省による物価偽装のカラクリの研究にも、寄与度の分析が大きな武器になります。
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