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第3章 統計局は世界標準の方式で計算

 消費者物価指数は、非常に重要な統計なので、いいかげんに計算されては困ります。 
それは、世界のどこの国でも同じです。そこで、国際的なマニュアルが作られています。
刊行は2004年。タイトルは「消費者物価指数マニュアル 理論と実践」。
ILO(国際労働機関)やIMF(国際通貨基金)など6つの国際機関が協力した産物です。
日本語の訳本も2005年に出版されています。写真をご覧ください。900頁近くもある分厚い本です。
内容は相当に難解ですが、筆者は一生懸命に解読しようとしています。
 日本では、消費者物価指数の担当は総務省統計局。
筆者の印象では、統計局はマニュアルにぴったり沿って消費者物価指数の業務を行っています。


計算方法の説明や計算に使うデータなどの情報公開は充実

 消費者物価指数を学ぶには、総務省統計局のCPIのホームページに親しむことが大事です。
消費者物価指数に関するデータが満載。消費者物価指数の計算方法なども説明されています。
「CPI」のキーワードで検索すれば、トップページに入れます。下の画像がそれです。



 左上にある「統計の概要」の文字をクリック。「消費者物価指数のしくみと見方」のページが出てきます。
これが大事な勉強材料です。基準時加重相対法算式の基本的な考え方も説明されています。


計算に使うデータは各品目のウエイトと価格指数

 総務省統計局が消費者物価指数を計算する際にどんなデータを使っているか確認しましょう。
各品目の支出額割合(ウエイト)と価格指数です。
 次の画像は、統計局CPIサイトに掲載されているデータです。
6段目に各品目の2015年基準のウエイトの数字があります。
統計局は「1万分のいくつ」の1万分比で各品目のウエイトを示しています。
 例えば、6段目のE列には「米類」の62という数字があります。
 CPI統計の対象全品目の合計のウエイトが1万。その中で米類のウエイトが62。
米類の支出額割合は1万分の62であり、%表示では0.62%ということになります。
統計局が実施する家計調査では、対象世帯に品目別の支出額も尋ねます。
その結果の数字をもとに統計局がCPI統計の各品目のウエイトを設定するのです。
2015年基準のウエイトは、2015年の家計調査がもとになっています。



 この画像の7段目からは、各品目の年平均の価格指数のデータです。
統計局は、小売物価統計調査で各品目の小売価格の推移を調べています。
それをもとに統計局が各品目の価格指数を設定しています。
2016年〜2020年の価格指数は、2015年を100とした数字を使います。
 E列の18段目に米類の価格指数の103.8という数字があります。
2015年〜2016年で米類の価格が1.038倍になったことを示します。その倍率の100倍が価格指数です。
103.8という数字からは米類価格の3.8%上昇という事実も読み取りやすいです。

対象品目などを5年ごとに見直す基準改定

 総務省統計局が毎月の消費者物価指数を公表しています。年平均の消費者物価指数も公表します。
統計局は、基準時点を「西暦の5で割り切れる年」と年単位にしているため、「基準年」と呼んでいます。
基準年は2000年、2005年、2010年、2015年…という具合です。
原則的には、2006年〜2010年は2005年を基準年に、2011年〜2015年は2010年を基準年にして計算します。
消費者物価指数を計算するときの対象品目は、600近くあります。
そして、5年ごとの基準改定のときに、品目を入れ替えます。
あまり買われなくなった品目は、計算対象から外し、買う人が増えてきた品目を計算対象に含めます。
2005年基準の買い物かごから2010年基準の買い物かごに変えるイメージは、図にするとこんな感じです。

「接続」という手法で継続性を確保

 総務省統計局の消費者物価指数の計算ルールでは、5年ごとに買い物かごの中身が変わります。
そのため、連続性が心配になります。
 例えば、2006年〜2010年は、計算の結果出てくるCPIは2005年=100の2005年基準の数字です.
一方、2011年〜2015年のCPIは2010年=100の2010年基準の数字です。
2008年のCPIは2005年=100の数字であり、2011年のCPIは2010年=100の数字となります。
この2つの年のCPIは、直接には比べられません。
 この問題を解決するのが「接続」という手法です。
CPI統計の全品目が対象のCPI総合指数の現実の動きをもとに考えてみましょう。
下の図やグラフをじっくり見てください。

 2006年〜2010年のCPI総合指数は、2005年=100の数字として出ます。表の@の段の数字です。
100→100.3→100.3→101.7→100.3→99.6という推移です。
2011年以降は2010年=100のCPI総合指数になります。それがAの段。100→99.7→99.7という数字です。
 グラフの通り、2005年=100の@の段の緑の線と2010年=100のAの段の青の線はずれています。
@の線上の2005年=100の2008年の101.7と、Aの線上の2010年=100の2011年の99.7は比べられません。
 困ったようですが、絶好の打開策があるのです。
100→100.3→100.3→101.7→100.3→99.6という推移。
これは各年の物価指数が「100:100.3:100.3:101.7:100.3:99.6」という比であることを示します。
この比の内容を変えずに、最後の2010年の数字を100にすれば、解決します。
99.6を100にするには、99.6分の100を掛けます。
@の段の数字のすべてに99.6分の100(ほぼ1.004)を掛ければ、
Bの段の100.4→100.7→100.7→102.1→100.7→100になるのです。
「100:100.3:100.3:101.7:100.3:99.6=100.4:100.7:100.7:102.1:100.7:100」。
両辺の比はイコールになっているのです。
 グラフで見る通り、Bの黄色の線はAの青の線に見事に接続しました。
これで、Bの線上の2008年の102.1とAの線上の2011年の99.7を直接比べられます。
下落率は2.35%。接続という手法は、こういう具合の簡単なものです。

物価指数は「価格指数の加重平均」として簡単に計算できる

 消費者物価指数の計算は、エクセルの表計算ができる人なら難しくありません。
総務省統計局が使っている基準時加重相対法算式の場合は、次の要領です。
まず、各品目ごとに「基準時点のウエイト×基準時点を100とした比較時点の価格指数」を計算。
次に、ウエイト×価格指数の積の合計を基準時点のウエイトの合計で割ります。
これだけで、比較時点の物価指数(基準時点=100)が出てきます。
 2018年9月のCPI総合指数を計算する概略の手順は、次の通りです。

 2015年が基準年なので、計算に使う各品目のウエイトは2015年基準のウエイトです。
各品目の価格指数は、2015年を100とした数字になります。
2018年9月のCPI総合指数(2015年=100)は、
D列の合計の1017000をB列の合計の1万で割った101.7になります。
(注意=この表の合計欄の数字は概数にしてあります)
 この計算は「各品目のウエイトを重みにした各品目の価格指数の加重平均」になっています。
物価は多くの品目の価格の平均的な動きを示す指標。「価格指数の加重平均」であれば、理屈に合う感じです。

基準時加重相対法算式を100倍した計算

 統計局は、消費者物価指数をラスパイレス方式の変形である基準時加重相対法算式で計算しています。
「価格指数の加重平均と基準時加重相対法算式の関係はどうなんだ」と疑問を持つ人がいるはずです。
そこで、第2章でよく登場したミカン・リンゴ物価指数モデルで考えてみます。

 この表の計算は、基準時加重相対法算式です。このモデルの想定は、
基準時点〜比較時点で、「ミカンは4割値下がり」、「リンゴは値動きがなかった」でした。
基準時点の購入代金は、ミカンが100円、リンゴが300円です。
 基準時加重相対法算式では、比較時点の代金は、
基準時点の代金に価格が何倍になったかの倍率を掛ければ出ます。
ミカンは、基準時点の代金の100円を0.6倍した60円が比較時点の代金。
リンゴは、基準時点の代金300円の1倍の300円が比較時点の代金となります。
 ミカンとリンゴの合計代金は、基準時点400円→比較時点360円です。
基準時点を100とした比較時点の物価指数は90です。
比較時点の360円を基準時点の400円で割ると0.9倍という数字が出てきます。
その0.9倍を100倍した90が比較時点の物価指数というわけです。
 続いて、ウエイトと価格指数を使った計算です。次の計算表を見てください。

 B列の数字を「ウエイト」としました。物価指数の世界での用語です。
買い物に関する一般的な表現だと「代金」。同じようなものと考えてください。
 注目していただきたいのはC列の数字です。
価格が基準時点から比較時点にかけて何倍になったかの「倍率」ではありません。
倍率を100倍した「価格指数」になっています。
 D列の「ウエイト×価格指数の積」も、直前の計算表のD列の数字を100倍した数字になっています。
今回の計算表は、直前の計算表と比べると、C列やD列の数字が100倍になっているわけです。
 直前の計算表では物価指数を計算する際、後で100倍しました。
比較時点の合計代金を基準時点の合計代金で割って、その後に100倍した手順です。
 今回の計算表では、前に100倍しています。
各品目の価格変化の倍率を価格指数の数字にするときに100を掛けているのです。
 そのため、今回の計算表では、D列の数字の合計をB列の数字の合計で割っただけで答えが出ます。
「36000÷400=90」が答え。基準時点を100とした比較時点の物価指数です。
 「×100」の計算を前にしても後にしてもいい理屈は簡単です。
「(A+B)×100=(A×100)+(B×100)」という式を思い出してください。
 ミカンの価格が基準時点〜比較時点で何倍になったかを「ミカン価格の倍率」と表記します。
リンゴでも同様の表記をします。次の2つの計算式を見てください。

上の式が基準時加重相対法算式です。
下の式は「×100」の場所をミカン価格の倍率やリンゴ価格の倍率の前に移した式です。
上の式と下の式が実質同じであることは、2つの式を眺めていれば分かります。
 下の式の「100×ミカン価格の倍率」はミカンの価格指数であり、
「100×リンゴ価格の倍率」はリンゴの価格指数です。
 基準時点のウエイトに価格指数を掛ける計算は「基準時加重相対法算式と実質同じ」と納得できるはずです。

各品目の寄与度を計算するための工夫

 物価指数の変化率に対する各品目の影響度合いを考えることは非常に重要です。
都合がいいことに、各品目の影響度合いは「寄与度」としてきっちり計算できます。
 価格指数の加重平均の計算表を手掛かりに寄与度を計算してみましょう。
ここで紹介する手順は、筆者が独自に考えついたものです。
まず、次の計算表を見てください。先ほどまでの「ミカン・リンゴ物価指数モデル」です。
今回は、ミカンやリンゴのウエイトを1万分比にしてあります。
総務省統計局は、CPI統計の対象の全品目の合計ウエイトが1万になるように設定しています。
今回はそれに習って1万分比にしました。消費支出の品目がミカンとリンゴだけいうモデルです。

 基準時点を100とする比較時点の物価指数の計算はスムーズ。
各品目の「ウエイト×価格指数」の積の合計を各品目のウエイトの合計で割るだけです。
この場合では、D列の合計をB列の合計で割る。「90万÷1万=90」となります。
 ただ、この計算表を見ているだけでは、各品目の寄与度をどう計算するかのイメージは湧きません。
そこで、筆者が考えついたのが次の表です。

 C列、E列、G列、H列を新設。基準時点と比較時点の買い物かごを比べる形にするのが目的です。
そのための工夫がC列です。基準時点を100とする価格指数が基準時点に100なのは当たり前です。
それでも、このC列を入れることによって、買い物かごを比べる形になります。
 基準時点と比較時点について、ミカンの代金、リンゴの代金、合計代金を比べるわけです。
「ウエイト×価格指数」の積を示したE列とF列を見てください。
「ミカンの代金は10万円減った。リンゴの代金は変わらない。だから、合計代金が10万円減少した」
こういう構図が浮かび上がっています。
 G列には、各品目の代金の増減額を並べます。
その数字を基準時点の合計代金で割って100を掛けた数字が各品目の寄与度(単位はポイント)です。
それをH列に並べます。H列の数字の合計が物価指数変化率(単位は%)です。

個別品目の影響が分かりやすい「100万円ベース買い物かご」

 先ほど説明したケースは、物価指数の説明には使い勝手がいいものだと思います。
買い物かご合計代金が100万円になるように設定すると、物価指数の仕組みが理解しやすいのです。
買い物かごの絵にしてみたのが次の図です。じっくり見てください。

 合計代金は、基準時点が100万円で比較時点が90万円です。
1万で割った数字が物価指数になっています。基準時点100→比較時点90です。
 基準時点の代金は、ミカンが25万円でリンゴが75万円です。
1万で割った数字が%表示での支出額割合になっています。ミカン25%、リンゴ75%です。
 代金の増減額は、ミカンがマイナス10万円。リンゴはプラスマイナス0円です。
1万で割った数字が寄与度(単位はポイント)です。ミカンの寄与度はマイナス10ポイントです。

基準時点のウエイトを何分比で設定しても寄与度の計算値は同じ

 物価指数の計算で使う各品目のウエイト(支出額割合)で重要なのは、各品目の比です。
これまで説明してきた「ミカン・リンゴ物価指数モデル」で言えば、
「ミカン1:リンゴ3」の比です。
この比を維持しているのであれば、ウエイトは何分比にしてもかまいません。
 第2章の説明では、ウエイトは400分比にしていました。次の計算表の通りです。

 次はウエイトを1分比にした計算表を見てください

 この場合、買い物かご合計代金は、基準時点が100円、比較時点が90円となります。
これは物価指数の推移とまったく同じ数字です。
 続いて、ウエイトを1万分比にした計算表をご覧ください。

 ウエイトを1万分比にすると、「100万円ベース買い物かご」になります。
 ウエイトを何分比にしてもいいのはなぜでしょう。
もう一度、ウエイトが1分比の計算表を見てください。
そして、ウエイトが400分比の計算表と見比べてください。
 400分比の計算表は1分比の計算表に比べ、
B列、E列、F列、G列の数字が400倍になっています。
400分比の買い物かご合計代金が基準時点〜比較時点で何倍になったかは、
「36000円/40000円」という計算で0.9倍となります。
この計算は「90×400/100×400」という計算と同じです。
「×400」の部分は、分母と分子の両方から取り除けます。
取り除いた後の計算は「90/100」となり、1分比の計算とまったく同じになります。
 さらに考えてみます。ウエイトが「Y分比」だったとしましょう。
買い物かご合計代金が何倍になったかは「90×Y/100×Y」という計算になります。
「×Y」の部分は、分母と分子の両方から取り除けます。
取り除いた後の計算は「90/100」。Yはプラスであれば、どんな数字でもOKです。
 次の図も見てください。比較時点の買い物かご合計代金を100万円にしたものです。

 基準時点の買い物かご合計代金を100万円にするときは、
基準時点の各品目のウエイトを1万分比にしました。
そうすると、買い物かご合計代金は100万円→90万円という推移でした。
今回は?万円→100万円という推移にすればいいわけです。
100万円は90万円の1.11111倍なので、基準時点の各品目のウエイトを1万分比でなく、
その1.11111倍の11111.1分比にすればいいわけです。
比較時点の合計代金を100万円にしても各品目の寄与度は変わりません。
計算表をしっかり見て、確かめてください。
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