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第9章 生活保護世帯の暮らしぶりを無視した計算


一般世帯平均の家計調査を反映した計算

 厚労省の生活扶助相当CPIの計算はデタラメ。
そう考えるもう一つの大きなポイントが支出額割合(ウエイト)です。
 厚労省は、CPI統計の2010年基準ウエイトを使って生活扶助相当CPIを計算しました。
これは、2010年の家計調査から設定されており、概ね一般世帯平均の数字と言えます。
生活扶助相当CPIは、生活扶助費の水準を決めるときの指標にする目的なので、
通常の感覚では生活保護世帯の平均を示すデータを使います。
 実際、それにふさわしい社会保障生計調査があるのです。しかも、厚労省が担当の統計です。
生活保護世帯の品目別の月間の平均支出額についての毎年度のデータもあります。
それを使わないのは不可解だと思います。
 CPI統計でも、東京都区部など各地の地域別のCPIの計算の際には、
その地域特有のウエイトを使って計算していることを思い起こしてほしいです。
 特定の品目の価格指数が大きく変動した場合は、
その品目のウエイトの違いによって物価指数変動率に目立った地域差が出ます。
それがよく分かる事例を紹介しましょう。
 2008年にガソリン価格が高騰。ピークは同年8月でした。
CPI総合指数を見ると、ガソリンの影響度の違いで全国平均と東京都区部の総合指数が大きく乖離しました。
2005年〜2008年8月の総合指数上昇率は、全国平均は2.7%で東京都区部は1.6%。
1.1ポイントもの差があります。
 2005年基準のガソリンのウエイトは、全国平均は1万分の224、東京都区部は1万分の84と大違い。
東京都区部では電車など公共交通機関がよく整備されている上に駐車場代が高く、
マイカーを持たない選択をする家庭の割合が高い。そのために、ガソリン代高騰の影響が軽かったのです。

各品目の影響度は支出額割合にほぼ比例

 物価指数変化率への各項目の影響度が支出額割合にほぼ比例することを確認しておきましょう。
ここでも、100万円ベース買い物かごで考えます。かごの中にA項目があるとします。
 物価指数変化率は、基準時点〜比較時点の買い物かご合計代金の変化率です。
物価指数が下落した場合であれば、合計代金の減少額を基準時点の合計代金で割れば、
物価指数の下落率が出ます。そして、合計代金の減少額は、各品目の代金の増減額の合計です。
このため、A項目の代金の減少額が著しい場合は、合計代金の減少に大きく影響。
物価指数変化率へのA項目の影響が大きい、という理屈になるのです。

 簡単なモデルで考えてみます。ラスパイレス方式の場合を先に説明します。
基準時点の買い物かごは、A項目の代金が2万円、その他の項目の合計代金が98万円。
A項目の価格下落率は20%で、その他の項目の合計代金は1万円減るという設定です。
比較時点の買い物かごは、A項目の代金が16000円、その他の項目の合計代金が97万円となります。
増減額は、A項目はマイナス4000円、その他の項目の合計代金が1万円で、
増減額の総合計はマイナス14000円となります。上の図を見て確かめてください。
A項目の増減額は「基準時点の代金×価格指数変化率」という単純な式で計算できます。
この場合は、基準時点の代金が2万円で価格指数変化率がマイナス0.2なので、
A項目の増減額は「2万円×(マイナス0.2)」でマイナス4000円です。
「基準時点の代金×価格指数変化率」は、基準時点の代金に比例して大きくなります。
このモデルで、基準時点のA項目の代金を10万円にしてみたのが次の図です。
A項目の増減額は「10万円×(マイナス0.2)」でマイナス2万円となります。
基準時点の代金が5倍になったので、増減額も5倍になったわけです。
増減額が5倍になったので、価格指数への影響度も5倍になっています。

 パーシェ方式の計算の場合は、各項目のデータがあるのは、
比較時点の支出額割合と基準時点〜比較時点の価格変化率です。
各項目の寄与度を計算する式は次の通りです。

この式から、比較時点の代金が大きいほど基準時点の代金も大きくなることが分かります。
パーシェ方式の場合も、比較時点の代金が大きい項目ほど増減額が大きくなり、
物価指数変化率への影響が大きくなるのです。
 結局、何らかの理由で価格指数変化率の大きな項目の支出額割合が現実より過大評価されていると、
ラスパイレス方式であれパーシェ方式であれ、
その項目の影響度が過大評価されて物価指数の変化率が異常に大きくなる現象が起きるのです。
 生活扶助相当CPIの計算では、厚労省がこうした過大評価を実行しました。
その対象になった主なものが、テレビやパソコンなどの電気製品です。
テレビやパソコンは2008年〜2010年の生活扶助相当CPIの計算で、
ラスパイレス方式でなくパーシェ方式が選択されたことによって、
価格指数下落の影響が過大評価されました。その上、支出額割合の過大評価もあったのです。

貧しいほど生活必需品の支出額割合が高い

 厚労省は、生活扶助相当CPIを計算する際、CPI統計の2010年基準ウエイトを使いました。
これは、2010年の家計調査にもとづいており、一般世帯の平均値です。
 生活扶助相当CPIは、生活保護制度の生活扶助費で買う品目群の物価水準を示す目的なので、
普通に考えれば、生活保護世帯の平均を示すデータがないか探し、
データがあれば、それをもとにウエイトを設定するはずです。
 ところが、厚労省は一般世帯の平均的な数字であるCPI統計の2010年基準ウエイトを使ったのです。
「貧富の差を無視した間違った計算」と言わざるをえません。
 貧富の差で支出額割合が大違いになることを、とりあえずデータで確認しておきましょう。
次の表は、家計調査の各年の2人以上世帯の品目別の平均支出額のデータから筆者が計算した数値。
消費支出額全体の中の各項目(個別品目または品目グループ)の支出額の割合を
「1万分のいくつ」の1万分比で示しています。全体の平均の数字と年収200万円未満世帯を比べ、
貧富の差が支出構造の違いに直結することを示しました。
 「貧しい世帯は生活必需品への支出割合が高くなる」も社会常識でしょう。
この表でもそれが裏付けられています。
 例えば、食料費。平均世帯では毎年、25%(1万分の2500)強の水準で推移してきました。
しかし、年収200万円世帯では33〜36%ぐらいの水準です。
平均世帯とは1割近くも乖離があることは重要です。
 また、生活が苦しい世帯ほど米に依存する傾向は昔から強く、
この表でも、米の支出額割合で平均世帯と年収200万円未満世帯の違いが大きいことが目を引きます。
 光熱水道費も同様。これも生活必需品の性格が強いので当然です。

対照的なのが、テレビやパソコン、カメラです。
 これら教養娯楽のためのデジタル家電製品は、生存のための必要性は食料などより弱く、
貧しい世帯の支出額割合は低い。この表でもほとんどの年については、
この3品目への支出額割合は、年収200万円未満世帯の方がかなり低くなっています。
 3品目とも年収200万円未満層の支出額割合が平均世帯の3分の1未満である年が目立ちます。
 ただ、2010年のテレビだけは年収200万円未満層の支出額割合の方が高い。
地デジ化や家電エコポイント制度などの特殊要因があることは第2章で既に説明した通りです。。
 教養娯楽のためのこうした電気製品は第2章で考察した通り、
CPI下落率を膨らませる影響度が極めて大きかったです。
厚労省が2008年〜2010年の生活扶助相当CPI計算で実質的にはパーシェ方式を使ったためです。
 その上、厚労省は「貧しい世帯では家電製品の支出額割合が低い」という社会常識も無視。
一般世帯平均の支出額割合を生活扶助相当CPIの計算で使ってOKとしたのです。
 生活扶助相当CPIの計算との関連では、たばこの支出額割合の問題も見落とせません。
喫煙者にはニコチン依存の人が多く、そうした人にとっては、たばこは生活必需品と同様の商品です。
そのため、貧しい世帯では、平均世帯に比べると必然的にたばこの支出額割合が高くなります。
この表でも、年収200万円未満世帯のたばこの支出額割合は、平均世帯の2倍を超す年が多い。
 そういう消費構造がある中で、たばこの価格指数は、2008年〜2011年で約38%も上がりました。
しかし、厚労省の生活扶助相当CPI計算では、一般世帯平均のウエイトが使われたため、
たばこによる生活扶助相当CPI下落率の圧縮効果が小さかったのです。
たばこのウエイトを生活保護世帯の実態を反映した数値にして計算していれば、
生活扶助相当CPIの下落率はかなり圧縮されました。たばこの問題も後で詳しく説明します。

社会保障生計調査を反映させて計算できたのに…

 生活扶助相当CPIの2008年から2011年への変化率を計算するのであれば、
厚労省が実施している社会保障生計調査のデータを活用して、支出額割合を設定するべきでした。
社会保障生計調査は、生活保護を受けている世帯のみを対象に、
それぞれの家計の収入とか支出とかを調査するもので、対象は全国の約1100世帯です。
厚労省のホームページに社会保障生計調査の説明があります。次の写真は「調査の概要」です。

目的の欄に「生活保護基準の改定等生活保護制度の企画運営のために必要な基礎資料を得る」と書かれています。
「生活保護基準の改定等」という文言があるのに、
生活扶助相当CPIの計算の際にどうしてこの調査を使わないでしょう。多くの人が疑問を持つはずです。
 厚労省が選択した家計調査の実情を調べれば、
社会保障生計調査のデータを活用するべきだったことが、さらにはっきりします。
社会保障生計調査は生活保護世帯だけを対象にしています。
調査方法に多少の問題があっても、生活保護世帯の平均の支出割合に近い数字が出てきます。
 一方の家計調査は、一般世帯の平均の数字を出します。
あくまで一般世帯平均です。生活保護世帯の支出額割合からは必然的にかけ離れます。
 国会でも「なぜ社会保障生計調査を使わなかったのか」とたびたび追及がありました。
2013年5月9日の参議院厚生労働委員会では、当時、厚労省社会援護局長だった村木厚子氏が答弁しました。
その一部をここで紹介しましょう。
 「社会保障生計調査は、世帯人員や居住地域が多岐にわたっている。
生活保護世帯のおおむねの消費傾向を把握するというために実施しているが、
調査対象の選定サンプリングをするに当たっては、都市部に生活保護世帯がたくさん住んでいるとか、
高齢者が多いとか、単身者が多いといった、
そういう生活保護世帯全体の特徴を反映した形でのサンプリングは行っていない。
だから、生活保護世帯全体の消費動向を示すという統計調査としては用いることができない」。
村木氏はこのように説明した上で、
「社会保障生計調査では生活扶助基準の見直しのベースにおくことは難しいというふうに考えております」と言いました。
社会保障生計調査の正確性に限界があるという論理です。もっともらしいですが、重要ポイントを無視しています。
 「どちらの調査がより生活保護世帯の実態に近いのか」です。
生活保護世帯だけを調査対象にした社会保障生計調査の方が生活保護世帯の実態に近いのは明白です。
 消費者物価指数の2010年基準ウエイトのもとになっている
2010年の家計調査(全国の2人以上世帯)の集計世帯数をチェックしてみました。
全体で約7800の世帯を調査していて、世帯の年収別の結果集計などもしています。
 年収別の階層は、200万円未満から、200万円〜250万円、250万〜300万円などの10階層以上に分かれていて、
それぞれの階層が全体の何パーセントの世帯を占めるかも簡単に計算できます。
 筆者が計算してみたところ、年収200万円未満の世帯数は、この家計調査全体の世帯数の中のわずか2.8%です。
一方、年収1000万円〜1250万円の層は6.3%、1250万円〜1500万円の層は2.5%、
1500万円以上の層ですら2.6%もあります。ほとんどの生活保護世帯は、年収200万円未満の階層に入ります。
家計調査では、その年収200万円未満の層が2.8%しか含まれていません。
 家計調査を反映した生活扶助相当CPIの計算では、
貧しい世帯の生活の状況に近い計算値が出ることはありえないのです。
 その上、近年では、家計調査の「正確性の限界」についてエコノミストらの言及が目立ちます。
それを受けて総務省は、消費動向についての新指標を作る方針を決め、
2016年9月15日、「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」の第1回会合を開きました。
それを伝える2016年9月19日付け「日経MJ」の記事は、
家計調査の正確性の限界を端的に説明しているので、一部を紹介します。
「協力する世帯にはデータ記入の負担が重く、共働き世帯などの協力を得にくいという弱点がある。
対象も2人以上の世帯が中心で、約3割を占める単身世帯の消費動向をつかみきれていなかった」。
 この訴訟で被告側が、家計調査の正確性の限界を棚上げして、
社会保障生計調査の正確性の限界を強調するのは詭弁です。

家計調査と社会保障生計調査を比べてみる

 社会保障生計調査と家計調査で、各項目の支出額割合がどのぐらい違うのかも見てみました。
まず、家計調査の支出の全体を10項目に分けた大分類の数字です。次の表を見てください。

 2005年度から2014年度までの数字が並んでいる部分は、社会保障生計調査の大分類の支出額割合です。
その下の部分は、CPI2010年基準ウエイトとCPI2005年基準ウエイトの大分類の支出額割合です。
ともに家計調査がもとになっています
 食料費割合(エンゲル係数)は、社会保障生計調査では毎年度30%前後であまり変わりません。
一方、CPIの2005年基準、2010年基準では25%台です。生活保護世帯の方がかなり高いのです。
 光熱水道費も差が目立ちます。社会保障生計調査では各年度8%台〜9%台だが、
CPIウエイトは、2005年基準も2010年基準も6%台〜7%台。さらに違いが目立つのが教養娯楽費です。
CPIウエイトは11%台。一方、社会保障生計調査では5%前後が続いています。
 生活に余裕がないと生活必需品の割合が高まります。
生活必需品の代表格が食料費や光熱水道費です。
 一方、教養娯楽費は、生存していくために絶対必要という性格の費用ではないので、
生活に余裕がない貧しい世帯の場合は割合が小さくなります。
 社会保障生計調査は生活保護世帯の貧しい世帯の傾向、
CPIウエイトは一般世帯の傾向がしっかり出ているわけです。
なぜ、生活扶助相当CPIの計算に、家計調査がもとになっているCPI統計のウエイトを使ったのか不可解です。
普通に考えれば、「社会保障生計調査をもとにした支出額ウエイトで計算するべきだ」と誰でも判断するでしょう。

PC・AV機器の支出額割合が大違い

生活扶助相当CPIの計算では、PC・AV機器の支出額ウエイトで、
社会保障生計調査と家計調査のどちらを使うかの差が極めて大きいです。
PC・AV機器はパソコンやテレビなどの音響映像機器を指します。
次の表は、社会保障生計調査のデータから抜き出した数字です。

同調査の各年度の支出額割合は、大分類の数字であれば厚生労働省のホームページに出ています。
それより細かい項目の支出額割合の数字は、ホームページには出ていません。
 しかし、弁護士らが公文書の開示請求を行って、
中分類程度の品目グループの支出割合が分かるデータが開示されました。
筆者はまず、2008年度と2010年度のデータを調べました。
対象世帯の平均の消費支出月額や品目グループごとの合計の平均支出月額が出ていた。
 その2008年度と2010年度の平均支出月額について、消費支出全体とPC・AV機器について計算。
消費支出全体に占めるPC・AV機器支出額の割合は、2008年度は0.21%で2010年度は0.43%でした。
 一方、家計調査での消費支出全体中のPC・AV機器の支出額割合についても筆者が計算しました。
家計調査では、個別品目の2008年度の支出額が総務省統計局のホームページに出ており、
全体の消費支出額の数字もあるので、そのホームページ上の数字を使って計算したのです。
 計算してみると、PC・AV機器の支出額が消費支出全体に占める割合は、
2008年度は0.96%で2010年度は1.39%でした。
 先ほどの社会保障生計調査でのPC・AV機器支出額の割合と比べると、
2008年度は家計調査が社会保障生計調査の4倍を超す高さになっていて、
2010年度も家計調査が3倍を超す水準になっています。
 2010年は貧しい世帯でもテレビを買う気持ちが増す特殊事情があったので、
例外的な数字だと思います。PC・AV機器は通常時であれば、
生活保護世帯より一般世帯の方が支出学割合は4倍ぐらい多いのではないか。
逆に言えば、生活保護世帯は4分の1ぐらいの低水準と考えられます。

 2008年〜2011年の生活扶助相当CPIの下落率は4.78%。
PC・AV機器の寄与度は計算してみると3%強です。
生活保護世帯の支出額割合で計算されていれば、PC・AV機器の寄与度は1%未満になるでしょう。
 家計調査の支出額割合を使ったことによるPC・AV機器の影響の過大評価は、すさまじいレベルです。

たばこの大幅値上げは過小評価

 2008年〜2011年のCPI統計を見ると、
価格指数が目立って上がってしかもウエイトがそれなりに大きいという項目はほとんどありません。
 ところが、一つだけ異彩を放つ項目があります。「たばこ」です。
2010年10月に大幅値上げがあり、価格指数の推移を2008年=100で表すと、
2008年と2009年が100で、2010年は109.6、2011年が138.4となっています。
3年間で4割近い上昇。これに絡んで注目しなければならないのは、
たばこの支出額割合が一般世帯と生活保護世帯とで大きく違うことです。
 筆者は、情報公開請求に応じて出された2008年、2010年の社会保障生計調査のデータを分析しました。
生活保護世帯の月間平均支出額が品目グループ別にまとめられたものです。
そこから消費支出の全体の金額とたばこの支出額を取り出し、たばこの支出額割合も計算しました。
 家計調査についても、総務省統計局のサイトから2008年、2010年のデータを取り出し、
たばこ支出や消費支出全体の年額などを調べました。分析結果をまとめたのが次の表です。
消費支出全体の中のたばこ支出額の割合は、家計調査では2008年、2010年とも0.35%であるのに対し、
社会保障生計調査では、2008年2%、2010年約1.6%と非常に高くなっています。

この支出額割合の比較から、生活保護世帯のたばこの支出額割合は
一般世帯の4〜6倍ほども高い水準だと推定される。これは非常に重要です。
生活扶助相当CPIの変化率の計算に大きく影響するためです。
 たばこは値上げだったので、CPI変化率を押し上げるプラスの寄与度の形で影響します。
寄与度は、価格指数変化率が一定ならば、支出額ウエイトの大きさでほぼ決まります。
そのため、生活保護世帯のたばこの支出額割合が一般世帯並みに過小評価されてしまうと、
たばこのプラス寄与度の過小評価に直結してしまうのです。
 生活保護世帯のたばこの支出額の割合が非常に高いことは、
ニコチン依存と関連させて考えるべきです。
生活保護利用者に喫煙に関するアンケート調査を実施して結果をまとめた論文を紹介します。 <

論文の次のくだりでは、ニコチン依存だと自覚している回答者割合が高かったことが報告されています。



 たばこは嗜好品だが、「貧しい世帯ほど支出額割合が高くなる」という点で、
生活必需品の様相が極めて色濃い商品です。
たばこ販売の世界では家電製品のリサイクルショップに当たるものが見当たりません。
そのため、貧しい人も1箱400円台のたばこをよく買っています。
 たばこの小売価格には、たばこ税、消費税など合計60%ほどの税が含まれていて、
それも購入者が負担せねばなりません。一方、富裕層でも一箱400円台のたばこをよく買う傾向があります。
 富裕層は食料については、高価でおいしいものを食べる傾向があるので、
収入がある程度多くても食料費割合は極端に低くはなりにくい。
 一方、たばこについては、生活保護世帯も富裕層も一箱400円台の銘柄を買う傾向が強いので、
たばこの支出額割合は単純に、収入が多いほど低く、収入が少ないほど高くなります。
厚労省は生活扶助相当CPIの計算をする際に社会保障生計調査のデータを活用しなかったので、
生活保護世帯平均ではなく一般世帯平均の支出額割合で計算することになりました。
 そのため、PC・AV機器の影響が著しく過大評価され、たばこの影響は著しく過小評価されました。
 こういったこともあるので、
次章では社会保障生計調査のデータを活用した生活扶助相当CPIの計算方法を示しました。
筆者の試算では、たばこの影響が適正に評価されると、
生活扶助相当CPI下落率の縮小に大きく寄与することが分かりました。
 物価指数の計算ルールの大原則は「価格変化があっても各品目の購入数量に変化が生じない」
という仮定で計算することである。ただ、たばこについては違和感を持つ人も多いです。
筆者も「たばこは健康によくない商品だから、大幅値上げを受けて購入数量を大きく減らすべきだ。
購入数量が変わらないという仮定はおかしい」といった意見を聞きました。
 そこで、たばこの大幅値上げに伴って購入数量が目立って減ったという仮定の試算もしてみました。
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