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第10章 真実の下落率は1%未満の公算大


社会保障生計調査を活かす計算方法を考える

 2008年〜2011年の生活扶助相当CPI変化率について、
社会保障生計調査のデータを使った正しい計算方法を考えてみましょう。
例によって、「生活扶助相当CPI買い物かご」で考えます。
買い物かごの合計代金がこの期間にどれだけ変わったか計算すればいいのです。
 総務省統計局のCPIの計算と大きく違うところが一つあります。
統計局の通常の計算では、支出額割合(ウエイト)は、2005年基準ウエイト、
2010年基準ウエイト、2015年基準ウエイトといった5年おきのウエイトしか使いません。
 ところが、生活保護世帯の支出額割合については、
毎年実施されている社会保障生計調査で毎年の数字をつかむことができます。
 社会保障生計調査では、何にいくら使ったか、家計簿のように書く手順があり、
品目別の平均の支出額が把握できるのです。
従って、各年の各品目への平均支出月額の数字を使い、
次の計算表に示す手順で生活扶助相当CPIの計算ができます。
 A列には品目名、B列には各品目の2008年の平均支出月額を並べる。
そして、C列には、各品目の2008年〜2011年の価格変化倍率の数字を並べる。
そして、B列の2008年の各品目の月間の平均支出額にC列の各品目の変化倍率を掛けると、
D列に2011年の各品目の平均支出月額の数字が出てきます。
CPI計算の一番基本的な基準時加重相対法算式(ラスパイレス型)です。

 B列の合計は、買い物かごの2008年の合計代金。D列の合計が2011年の合計代金なので、
B列の合計とD列の合計から計算すれば、
買い物かごの合計代金が2008年から2011年までどれだけ変わったかが計算できます。
 その2008年の合計代金を100とすれば、2011年はどれだけだったか。
その数字が2008年を100とした2011年の生活扶助相当CPIです。
 2008年〜2011年の価格変化倍率を示すC列の数字も、簡単に計算できます。
総務省統計局のCPIのホームページには、
2010年を100とした2010年基準の各品目の価格指数データがあります。
その2010年基準の各品目の価格指数をずっと見ていって、
各品目の2010年基準の2008年の価格指数と2010年基準の2011年の価格指数を取り出します。
そして、各品目について、2010年基準の2008年の価格指数を分母にし、
2010年基準の2011年の価格指数を分子に置きます。
その分母、分子の数字が、2008年〜2011年の価格変化倍率です。
 これは、2008年の価格を分母にして2011年の価格を分子にした内容なので、
価格の変化倍率になっているのです。
そのように計算しておいた各品目の変化倍率をC列に載せておきます。
そして、B列の数字に掛ければ、D列に2011年の支出額が出てきます。

社会保障生計調査を活かした計算結果は下落率0.64%

 次の表は、2008年度の社会保障生計調査のデータを使った生活扶助相当CPIの計算結果です。
これが本筋の計算法だと筆者は考えています。
 社会保障生計調査の調査結果についての情報公開請求では、
政府は個別品目ごとの平均支出額を示すデータは開示していないと思われます。
筆者が目にしたデータも個別品目ごとの数字ではなく、品目グループの平均支出額の数字。
筆者は、それらの品目グループを項目として計算。
生活扶助相当CPIの対象外の項目の数字を外して計算表に整理しました。
 CPI統計から、各項目の2010年=100の2008年と2011年の価格指数を取り出して、
各項目の2008年〜2011年の価格変化倍率を計算。
各項目で「2008年の平均支出月額×価格変化倍率」の計算をして、
各項目の2011年の計算上の平均支出月額を出す手順です。
 この計算表では、B列の合計が2008年の支出総額、F列の合計が2011年の支出総額になります。
また、G列と一番右の列で各項目の寄与度を計算しています。
一番右の列の最下段が、寄与度の合計=生活扶助相当CPI変化率です。
マイナス0.643%という数字が出てきました。
2008年〜2011年の生活扶助相当CPI下落率は、厚労省の計算だとマイナス4.78%です。
約4ポイントも乖離しています。
厚労省は、真の下落率から4ポイントほども膨らませた下落率の数字を使って、
生活扶助費の過剰削減をしたのです。

 この筆者の計算には、厳密に正しい数値が出せない限界があります。
ただし、正しい数値との乖離はそれほど大きくないでしょう。
「2008年〜2011年の『真の』生活扶助相当CPI下落率は1%未満」と筆者は考えています。

試算結果は正確ではないものの近似値

 この社会保障生計調査を使ったCPI計算には、
アバウトな点があって概算にとどまる点には注意が必要です。
問題は、先ほどの計算表の中で価格変化倍率を算出した元になる2008年や2011年の価格指数の数字です。
これらが個別品目の価格指数であれば問題はないのですが、
穀類とか飲料といった品目グループの平均の価格指数になっているものが多いので、具合が悪いのです。
品目グループの価格指数は、グループ内の各品目の価格指数の加重平均として算出します。
加重平均するときの計算で使う各個別品目の支出額ウエイトは、
CPI基準ウエイトの数字しか公表されていません。
これは家計調査がもとになっており、一般世帯の支出額割合が反映された数字です。
それを使って加重平均して算出される各品目グループの価格指数なので、
生活保護世帯の支出額割合から計算した価格指数とはずれる理屈です。そのため、正確さに欠けます。
 しかし、正しい計算値との誤差は大きくないです。
筆者のこの生活扶助相当CPI試算では、基準時点は2008年で比較時点は2011年。
2008年〜2011年の生活扶助相当CPI変化率は、各項目の寄与度の合計です。
 その各項目の寄与度について考えると、誤差が大きくならない理屈が分かります。
各項目の寄与度は「%表示の2008年の支出額割合×価格指数変化率」の式で出せます。
変化率は少数点表示の数字。変化率がマイナス60%のときはマイナス0.6という具合です。
2008年の各項目の支出額割合は、社会保障生計調査のデータを使っているので誤差はありません。
 誤差があるのは価格指数の変化率であり、各項目の寄与度の誤差は
「%表示の2008年の支出額割合×価格指数変化率の誤差」の式で出せます。
調べてみると、各項目の価格指数変化率の誤差はそれほど大きくならないのです。
 例えば、厚労省の生活扶助相当CPIの計算でマイナス寄与度が大きかったPC・AV機器。
この白井試算では、PC・AV機器の2008年の支出額割合は0.2925%であり、
2008年〜2011年の下落率は0.67です。このため、マイナス寄与度は「0.2925×0.67」で0.196と計算できます。
この0.67という下落率には誤差がありますが、その誤差は大きくなりようがないのです。
 なぜなら、PC・AV機器の各品目の価格指数の下落率が次の表の通り、
0.6台と0.7台に集中してあまり差がないからです。

 この場合は、PC・AV機器の中の各品目の支出額割合がどういう数字であっても、
加重平均で計算されるPC・AV機器の価格指数下落率は0.6台か0.7台となることは理解しやすいでしょう。
価格指数下落率の誤差は、大きくても0.1ぐらいにしかなりません。
 試しに、この誤差を0.07と仮定してみると、
PC・AV機器のマイナス寄与度の誤差は「0.2925×0.07」で0.02となります。
生活扶助相当CPI変化率の誤差への影響は、ごく小さいわけです。
 たばこも要チェック項目ですが、CPI統計の対象は、国内たばこと輸入たばこの2品目だけです。
その2種類のたばこの2008年〜2011年の価格指数の変化率もほぼ同じなので、
個別品目の価格指数でないからという理由で目立つ誤差が出ることはありません。今の問題点には無関係です。
 その他の多くの項目は、項目内の各品目の価格指数変化率が小さいので、
プラスにせよマイナスにせよ、寄与度の絶対値は0.1%未満です。
 そういった事情で、寄与度の誤差は大きくなりようがないのです。
筆者がいろいろ試算した感触では、寄与度の誤差が0.05ポイントより大きい項目はわずかです。
そのため、各項目の寄与度の誤差の合計は0.5ポイントに届いていないとみられます。
こういった筋道で考えて、筆者は次のように判断しました。
「2008年〜2011年の生活扶助相当CPI下落率は1%未満である可能性が高い」。
社会保障生計調査のデータを使った筆者の試算に、正確性の面で問題が残るのは残念です。
 ただ、ほんの少しのことで一気に解決する点が重要です。
社会保障生計調査の平均支出月額が、品目グループとしてではなく個別品目ベースで開示されればいいのです。
その数字が使えれば、各品目の2008年の支出月額と価格指数の変化倍率から、
各品目の2011年の支出月額がスムーズに計算できます。裁判手続きや国会審議を通じてでもいい。
2008年度社会保障生計調査の品目別の支出月額の数字が公開されることを望みます。
それがあれば、「原理的に正しい生活扶助相当CPI下落率」が簡単に計算できます。

白井試算の100万円ベース買い物かごが実態に近い

 次の表は、2008年の社会保障生計調査のデータをもとにした計算表です。
2008年の社会保障生計調査には各項目の平均支出月額が示されています。
生活扶助費で買う生活扶助相当の項目の合計代金は約12万円であり、
それを100万円に置き替えて100万分比という形で示しました。
 2008年の合計代金が100万円であり、それが2011年にいくらになるか、という計算です。
項目は全部で56あります。ここでは支出額の増減が激しい20項目だけ載せ、その他の36項目は省きました。
「PC・AV機器」に注目ください。テレビやパソコンなどデジタル家電の項目です。
2008年は2925円に過ぎません。それが2011年に965円に減っています。
 下落率は大きいですが、支出額の減り方はそれほど目立ちません。CPI変化率への影響も小さいのです。
 厚労省の2008年〜2010年の100万円ベースの計算表では、
2008年のテレビだけの支出額が32255円でした。金額があまりに違います。

 表の下の方では、支出額が最も増えた項目として、たばこが目立ちます。
2008年の支出額が27814円で、2011年は38488円と、1万円以上も支出額が増えました。
社会保障生計調査は、生活保護世帯の平均の支出額割合を示します。
 現実にも生活保護世帯のたばこの支出割合は高いのです。
2010年のたばこ値上げの影響は生活保護世帯には非常に重くのしかかっていました。
 ただ、健康に有害なので、たばこについては「大幅値上げに伴って購入数量を減らすべきだ」
といった意見が根強いのも確かです。
そこで、たばこの購入数量が2008年〜2011年で約2割減る仮定でも計算してみました。
その場合は、2011年のたばこ代金は約30800円になり、
2008年〜2011年の生活扶助相当CPI下落率は約1.4%です。
 たばこ値上がりの影響を緩和しても1%台前半の下落率なのです。
厚労省の示した4.78%という数字の「膨らませ方」に、国民の厳しい目が注がれるべきです。
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