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第12章(特別付録)裁判闘争で勝つための参考資料

@イベント用寸劇のシナリオ

 物価偽装問題は、全国29カ所の地裁で争われている生活保護費をめぐる裁判での最重要論点。
筆者は裁判関係者の多くが物価偽装問題に興味を持てるよう、寸劇のシナリオを書きました。
愛労連前議長の榑松佐一さんが修正してくれ、集会で実際に公演してもらったら大好評でした。
裁判にかかわる3人が壇上でマイクを持って話すという単純な寸劇です。


・さいばんかつよ弁護士(男性なら、さいばんかつぞう)
「皆さん、お元気ですか。私は弁護士のさいばんかつよです。
きょうの集会には特別にお役人さんをお招きしました。
そのお役人さんと、この裁判の原告である大澤さんとの3人で、
生活扶助費を大幅に削ったことの是非を話し合います」
・厚生太郎氏「お招きいただき、ありがとうございます。厚生太郎、と言います。
私が当時のコーセーな担当者です。物価が下がったら、いろいろな品物が安く買えますね。
生活扶助の金額を変えないでいると、受給者以外の方々と不公平になります。
そのために、生活扶助費をチョッとだけカットさせていただきました。」
・大澤さん「大澤と言います。よろしくお願いします。ちょっとだけじゃないですよ。
大幅カットです。生活は苦しくなる一方です。いったいどんな根拠で保護費を削ったんですか」
・厚生太郎氏「お答えします。
生活扶助費で買う品目を対象にした生活扶助相当CPIという物価指数をうちの役所で考え出しました。
その生活扶助相当CPIが2008年から2011年にどれだけ低下したかを計算したら、
4.78%下落していたことが分かったのです。その下落率をそのまま反映させて、
生活扶助費をカットさせていただきました」
・さいばん弁護士「さいばんかつよです。反論させていただきます。
その物価指数が酷いインチキなんです。計算方法を勝手に変えたことが分かったんです。
日本の消費者物価指数の担当は総務省統計局です。統計局はいつもラスパイレス方式で計算しています。
厚労省さんの計算は、2010年から2011年にかけてはラスパイレス方式です。
しかし2008年から2010年までの期間はパーシェ方式の計算になっているんです。
2つの計算方式を混合するなんてでたらめです」
・厚生太郎氏「まあまあ冷静になりましょう。
物価指数は、多くの品目の価格の変化率とその品目の購入額割合から計算します。
購入額割合はウエイトと呼んでいます。
でも、公表されているウエイトのデータは5年おきのものしかありません。
2008年の指数を計算をするときに、2005年のウエイトだと随分古いくなります。
そこで2010年のウエイトを使うことにしたんです。
2008年の指数計算に2010年のウエイトを使うと、
パーシェ方式で計算した場合と同じになるんです。
たまたまパーシェ方式と一致したのであって、
計算方式を混合させようと思ったわけではありません」
・大澤さん「話が難しくなってきました。弁護士先生やさしく説明していただけませんか」


・さいばん弁護士「そうですよね。きょうは説明のための簡単な資料を持ってきました。
この2008年から2010年にかけての計算が酷いのです。その期間の計算を統計局方式と比べた説明図です」
(会場参加者にB4の紙が配られる)
・大澤さん「これは買い物かごの絵ですか」
・さいばん弁護士「物価指数の計算は買い物かごスタイルなので分かりやすいのです。
合計代金の変化率が物価指数の変化率となります。
厚労省は485品目を268項目にくくり直して、買い物かごに入れました。
左側の絵では、買い物かごの合計代金は2010年が100万円になっています。
一人暮らしの人の1年分くらいですね」

・大澤さん「買い物かごの合計代金は、
2008年に104万4802円だったのが2010年は100万円に減ったということですね」
・さいばん弁護士「そうです。左側の絵だと、
2008年から2010年の2年間で約4.3%と大きく下落しています。」
・大澤さん「そんなに、物価が下がったかなあ」
・さいばん弁護士「今度は右側の絵を見てください。統計局の計算方式です。

2005年の買い物かご合計代金が100万円になっています。
合計代金は2008年が101万7474円で2010年が99万9443円。
物価指数では2005年が100で、2008年が101.75、2010年が99.94です。
2008年から2010年の下落率は約1.8%です。厚労省の計算とは全く違います。
普通ならこの計算になります。厚労省はわざと下落率が大きくなるように計算したんです。
お役人さん、反論できますか」
・厚生太郎氏「うーん。意外に勉強されていますね。物価の話は難しいので、
この場ではなく裁判の場でしっかり説明します」
・大澤さん「この絵には電気製品の数字ばかりがあるんですけど、どうしてですか」
・さいばん弁護士「このころはほとんどの品目の価格はあまり変わっていません。
ところが、電気製品の価格は大きく値下がりしていて影響が大きかったんです。
だから、電気製品とその他、という具合に分けました」
・大澤さん「左側の絵だと、テレビやパソコンの数字が随分大きい…。
2008年はテレビに3万2255円も使ったことになっている。みんな、そんなに買ったかなあ?」
・さいばん弁護士「右側の絵だと、テレビの2008年の年間代金は2674円です。左側の絵の方は約12倍です。
ノートパソコンも見てみましょう。2008年の代金は、左側の絵だと9100円で、右側の絵だと1159円です。
左側が約8倍です」
・大澤さん「その12倍とか8倍とかの数字は何ですか」
・さいばん弁護士「ここがややこやしいところなので、よ〜く聞いてください。
まず厚労省の計算だと買った数が2010年のときの数量が2008年でも同じだったとして計算します。
一方、統計局の方式だと、2005年のときの買った数が2008年でも2010年でも同じとして計算します。
生活はあまり変わらなかった仮定で計算します」
・大澤さん 「ということは。2010年の購入数量が大きく増えていると,
2010年の数量を使う厚労省方式ではその品目の影響がすごく大きくなるわけですね」
・さいばん弁護士「そういうことです。厚労省の計算だと、
テレビの購入数量は2005年から2010年にかけて約12倍に増えたとになっています。
ノートパソコンの購入数量も約8倍に増えています。統計局方式で計算したのに比べ、
テレビの影響は約12倍、ノートパソコンの影響は約8倍に膨らんでいます」
・大澤さん「テレビは2010年にそんなにものすごく売れたんですか」
・さいばん弁護士「2010年は翌年の地デジ化を目前に、
テレビを買い替えないとテレビが見られなくなるという事情がありました。
家電エコポイントもあり多くの世帯でテレビを買い替えました。
2010年は特別な年だったんです」
・大澤さん「でも、その事情は2010年だけのものでしょ。
2009年や2008年も2010年の購入数量で計算するというのはおかしいです」
・さいばん弁護士「そうなんです!。だから、おかしな計算結果になるんです。」
それから生活保護世帯は事情が違います。政府は生活保護世帯にチューナーの無料配布をしました。
生活保護世帯は急いでテレビを買い替える必要はなかったんです。
大澤さんはそのとき、テレビはどうされたんですか」
・大澤さん「チューナーを取り付けてテレビを見ました。
でも、そのうちにだんだんと映りが悪くなりました。そこで、あきらめました。
貧乏なんだからテレビを見るのをあきらめたんです」
・さいばん弁護士「えー、そんなエピソードがあったんですか。驚きました。」
・さいばん弁護士「パソコンはもっと分かりにくいカラクリがありますよ。
パソコンは価格も販売数量もそんなに大きな変化があったわけではないのです」
・大澤さん「でも、この絵を見て考えると、価格は激落した、
購入数量も2010年の方がものすごく多かったと見えますよ」
・さいばん弁護士「物価指数の世界では,
性能が大幅に上がった商品は価格が下がったとみなすルールがあるのです。
性能がすごくよくなったら割安に買えたという感じですね。
だから、物価指数の計算上では価格が下がったことにします。
こういう場合は購入数量が増えたのみなすのです。これを品質調整といいます。」
・大澤さん「それはおかしいですよ。自分はパソコン使っていないですよ。
自分らの年だとパソコンなんて使わないという人が多いですよ」
・さいばん弁護士「そうなんです。パソコンを使う生活保護利用者でも、メールを出したり、
いろいろなホームページを見たりするだけでは品質向上はあまり関係ありません。
ほとんどの生活保護世帯とは無縁な理屈で、パソコンの影響が大きいことにされてしまったのです」


・大澤さん「だんだんと腹が立ってきました。自分らはテレビやパソコンをあまり買えないのに、
厚労省の物価指数の計算ではその影響で生活費が大幅に安くなったことにされたんですね。
こんなの詐欺じゃないですか。お役人さん、酷いことをしてくれたんですね」
・厚生太郎氏「いえいえ。自分たちはおかしな計算をしたつもりはありません。
常にコーセーです。厚生労働省ですからね」
・さいばん弁護士「それなら、証人尋問の証人も務めてください。
正々堂々と裁判で決着をつけましょう」
・厚生太郎氏「証人はちょっと抵抗が…。役所に持ち帰って検討させていただきます」
・さいばん弁護士「大澤さん、私の名前は?」
・大澤さん「さいばんかつよ。そうだ。裁判は絶対に勝ちましょう」
・さいばん弁護士「これで終わりです。皆さんありがとうございました。
さいばんかつよ、さいばんかつよ、皆で頑張りましょう」

A名古屋地裁の法廷で筆者が証言台からアピール

 物価偽装が最重要論点である全国29地裁の訴訟のうちで一番進行が早いのは名古屋地裁です。
2020年春に判決が出る見通し。2019年9月から10月にかけて証人尋問があり、
筆者は物価偽装について説明しました。パワーポイントが使えたので、
味方の原告側弁護士とやりとりする主尋問は、講演のような感じでした。
その主尋問での筆者の結びの言葉を載せさせていただきます。


 はい。この国際マニュアルのこのページでは、
CPIの各国の担当機関に心構えみたいなものを説いているんだと思うんですが、
まず、「CPIがあらゆる種類の物価スライドのために広く使われる」と書いてあります。
本件の場合は何かというと、正に生活扶助基準の物価スライドです。
なおかつ、生活扶助基準というのは、国民の最低生活ラインを考えるもの。
その生活扶助基準についての物価スライドをやったと。であればこそ、物価下落率は、
疑念を持たれないような形で計算されなければならなかったということなんです。
 ところが,厚労省は何をしたのか。「意図的に計算方法を変えて下落率を膨らませてしまった」
ということになっています。そのことについて言うと、まず、2つの計算方式を併用した。
これは社会常識を完全に逸脱している。そして、社会保障生計調査のデータを使わなかった。
これも全く腑に落ちません。そして、2010年を比較時点にして、実質的にはパーシェ方式で計算した。
ここのところは、私は「特にひどい」と怒りがなかなか収まらないわけです。
なぜかというと、2010年のCPI統計の各項目の支出額割合を使って、
2010年を比較時点にして実質的にパーシェ方式で計算すれば、
物価下落率が非常に大きくなってしまうというのは、過去のパーシェ・チェックなどの例で分かるように、
既に物価指数に詳しい人のところで分かってたわけです。
分かっていた下落率が大きくなる方式をわざわざ選んで生活扶助相当CPIの計算値としたわけです。
 その物価下落率が膨らむ主要因になったテレビやパソコンについてはどうだったか。
テレビやパソコンは、貧しい生活保護世帯の方々が余り買えない製品です。
そういった当事者の事情を一切考慮せずに、なぜ,生活保護世帯対象にだけ、
これほど意図的な計算方法の選択をしたんでしょうか。全く腑に落ちない。
こういうふうに、物価指数の計算値を何かの政策に使う、そういったことがこのように行われては、
「物価指数統計が正しくされている」「物価指数は正しく計算され、
物価スライドは正しく運営されている」という国民の信頼感をぶち壊す。
そういったとんでもない振る舞いだと思います。
 それから、物価指数の計算というのは「難しいから分かりにくい」と思ってる人が多いんですが、
しかし、実際は、物価指数の計算は買い物かごの形になっていて、非常になじみやすい。
物価偽装のカラクリについても、実はそれほど難しくはありません。
数学ではなくて「難しい算数」というレベルだと思っています。
それなので、多くの人が物価偽装のカラクリを研究して、
どういったひどいことが実行されてしまったのか理解されるように私は切望しています。
 本日は、貴重な機会を与えていただいて誠にありがとうございました。

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